「お兄ちゃんのせいだからね」
「悪い」
少女の声と青年の声が一軒の家の庭から聞こえる
家と言ってもどちらかと言えば小屋だろう
木製の其れの壁は名も知らない植物のツルに這われている
小さく白い花が膨らみ今すぐにでも弾け咲きそうだ
確か去年の今頃はこれから甘ったるい香りが漂っていた
「お兄ちゃん。ソコの草刈り鎌頂戴?」
「おぅ」
ワで固い土を耕していく
ひび割れた大地に根強く生えていた草花の根がザクザクに切られ散らばる
二人は黙々と荒れた畑の草を刈り耕す。
少女と青年−−−兄妹は庭と称した荒地で畑の雑草を刈っていた
少女−−−ジェリスは、兄−−−コウからもらった、確実に自分の手には適さないサイズの草刈り鎌を特に気にせず扱う
黄色い花の多年草や名を知る必要の無い草がその命を終わらせる
コウはク
荒れているのはココだけではない
お隣さんだってボロボロの小屋に住みひび割れた畑を眩しいほどの笑顔で耕す
この西外れの村だけではなくこの大陸全体全てにおいて荒れている
アルバクルス〜希望の大地〜
15年近く前、そう呼ばれていたこの大地にその面影は無い
そのころは余るほどの食料が有ったが今はその日生きるだけでも手に入れば幸運だ
飢え死にする者なんて数えるなんて意味が無い
「なぁ?」
手を止めてコウがジェリスに問う
「なぁに?お兄ちゃん」
ゆっくりした動作で振り返る
両脇の長い金髪が揺れ、微笑みを見た者はなんとなく幸せに感じるだろう
体格は中肉より少し小さく、軽くはかなげに見えてくる。
……頬の泥と右手の草刈り鎌さえなければ
「未だ前とった猪肉残ってるか?」
クワを地面に刺して柄に手を置き其処に顎を乗せる
茶髪の乱雑な、ろくに切った事も無いだろうと思われる髪
平民の服と比べ、ダブダブのズボンに左肩の袖が無い青い上着、中には白いボロボロのシャツ。またその中に黒く薄いへそが出るシャツ
身長は中の上。むき出しの左腕には読めない文字が一つ二の腕の真ん中に書かれている
男にしては目が大きい。タイプ的に癒し系かもしれない。
「いいえ?」
きょとんとした様子でジェリスが言った
それを聞いてコウはふ〜んと言うと、もう必要ないとばりにクワを置いて
「なぁジェリス?生きるためにも、肉は必要だと思わないか?人間肉無いと肉できないからな。野菜だって幾ら荒地に適していたって出来るのに時間がかかることには変わらない」
「・・・・・・・・」
ジェリスはいきなり元気に熱弁し始めた兄を奇異の目で見ている
と言うより呆れているようだ
「ちょうど時期的に雑食の動物の群れが近くに居るし、そんなに強くないが美味い奴が…」
「いいよ」
にっこりと笑ってそう言った
動作だけ見ていると兄と妹の微笑ましい会話だろう
しかしコレは兄は狩りに獣を狩ってくるといって妹が笑顔で承諾しているのだ
その返事を待っていたかのように目を煌めかした
おあずけを待っていた犬のように
「夕方までには戻る!楽しみにしててくれよ!!!」
そう言って倉庫に駆け出し確実に狩りには向かない大きな剣を引きずって来た
剣というより黒い鉄の板みたいなもので斬ると言うより殴る系であろう
「うん。がんばってねお兄ちゃん」
「おうよ!」
手には獲物を持って帰るための袋と縄。それのみを持って駆けていく
活き活きとした様子にジェリスはため息がこぼれる
良い意味のため息であった
風が強くなり金髪が揺れる…彼女は青い目に髪が当たらない様に抑えて青い背中を見つめていた
白く小さな花のつぼみは駆けていく足に踏まれた